ワーク・ライフ・バランスと子育て
札幌弁護士会会員 祖母井里重子
 2000年、結婚13年目にして、子供が生まれました。もともとこれといった趣味もないので、そのころは自分の時間を無制限に使って仕事をしていたと思います。
 しかし、子供の誕生後は、生活が激変しました。生後6ヶ月から小学校に入学するまでは、近くの保育園に通っていました。朝は午前9時ころまでに送り、夜は原則午後6時(延長申請をした場合は午後7時)までにお迎えに行かなければなりません。小学校に入った今は、朝8時前に出て行き(おそらく防犯上の問題だと思いますが、なんと朝は午前8時5分までは登校してはいけないことになっているのです)、午後6時すぎに、YMCAのアフタスクールから帰ってくるため、この時間には家にいなければなりません。
 朝は、自分の身支度をすませた後、子供を起こし、着替えをさせ、朝食を食べさせて、送る、帰宅したあとは、夕食を作り、子供に食べさせて、入浴させ、寝せる、という単純な生活の繰り返しなのですが、その合間に洗濯・掃除・買物をしたり、本を読んでやったり、宿題をさせたり、学校からの連絡事項に目を通したりetc.、各種行事としては誕生祝、運動会、習い事の発表会、七五三etc.、その他いろいろあります。夫や両親、事務所のスタッフまで多くの人の助けを借りてなんとか子供は育っていますが、とにかく、時間がいくらあっても足りません。
 
 40代での子育ては体力的には本当に厳しいのですが、子供は各成長段階において、大きな喜びや発見をもたらしてくれます。子供の誕生がわかった時、男性女性を問わず多くの同業先輩に、仕事のかわりはいくらでもいるけれど、子供にとって母親は私一人しかなく、子供と一緒にいることができる時間も振り返ってみると一時期のことだから大切にすごした方がいい、とアドバイスを受けました。諸先輩のアドバイスがあまりに熱心で、時に後悔の念(?)がにじみ出ていたため、あまり実感はありませんでしたが、事務所も縮小し仕事の間口を小さくして臨みました。最初は慣れない生活でしたので、大正解だったと思っています。
 
 しかし、それでも、続けているといつの間にか仕事は増えていき、仕事に広がりが出てくると欲も出てきて、当初思い描いていたような育児主体の生活を送ることはできませんでした。恒常的に睡眠時間を減らして無理をすると、体力的にも精神的にも疲弊し、勢い、どうすれば、仕事と育児の両方がうまく両立できるか、ということに腐心するようになりました。
 その有効な手段のひとつは、当然ながら時間を有効に使うことであり、周囲に笑われながら、「効果的な時間の使い方・・」などといったハウツーものを読みあさったりもしました。しかし、最近は、無駄を省き時間を有効に使ったからといって、満足が得られるものではないと感じています。
 仕事に時間をかけなければならない時に子供といる時間を多く確保できてもやっつけ仕事ではかえってストレスが溜まりますし、子供の行事に出席できないことが連続したりすると、どんなに仕事がはかどってもあせりが募るのです。時間は有限ですから、画一的な両立ではなく、事の内容や程度に応じて自分なりに仕事と育児のバランスを図ることが肝要と痛感しています。

 数年前から、「ワーク・ライフ・バランス」という言葉をよく耳にするようになりました。正式な定義があるのかどうか知りませんが、「仕事と(仕事以外の)生活の調和、共存、両立」などといった意味で使われ、企業などにその環境整備が求められています。政府の「ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議」は、平成19年12月18日に、会合を開き、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」と「仕事と生活の調和推進のための行動指針」をとりまとめています。この中に、「仕事は、暮らしをささえ、生き甲斐や喜びをもたらす、同時に、家事・育児・近隣との付き合いなどの生活も暮らしには欠かすことはできないものであり、その充実があってこそ、人生の生きがい、喜びは倍増する」とあります。
 
 この憲章や指針の実効性のほどはよくわかりませんが、その趣旨については、私も、自らの育児を通して、おおいに共感する次第です。我々の業界は企業と異なり、多くは自分で環境を整備しなければならないのがつらいところですが・・(弁護士国民年金基金の積立は、自分でできる将来の環境整備の一つかもしれません)。
 調和は、必ずしも、50対50である必要はなく、仕事が99の時もあれば、生活に比重が大きい時もあると思います。調和していると感じるかどうかは、人によっても、時期によっても異なるものですから、画一的に捉えることはできないと思いますが、両方バランスがとれている時は、まさに「倍増」の喜びを感じることができるのは確かだと思います。「国民一人ひとりが、やりがいや充実感を感じながら働き、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」(上記憲章より)であってほしいと願ってやみません。
 以上

(うばがい りえこ / 48期)

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陽だまり No.32  `08.5より