乗り鉄ライフを続けるために
大阪弁護士会会員 今村 峰夫

1.はじめに
 私は昭和62年大阪弁護士会に登録した。バブル経済が始まっており、社会は多少の紆余曲折があっても、右肩上がりに成長するものと思い込んでいた。
 弁護士国民年金基金には制度発足当初から加入していたが、いそ弁だったこともあり、そのメリットに対する理解が乏しく、2口入っただけだった。事務所のパートナーにしてもらった後もそのままだった。何年か前に友人のY弁護士から、掛金全額所得控除で老後に備えられる素晴らしい制度であることを教えられ、遅まきながら入れる上限まで増口をした。「失われた20年」は私の年金基金の掛金にも当てはまり、今でも後悔している。

2.乗り鉄
(1)私は小学生の頃から鉄道が好きで、毎晩、時刻表を見ながら、日本一周旅行を妄想していた。京都に住んでいたので、京都駅にはよく行ったが、京都を通る在来線の特急は限られていた。向日町の操作場まで行くと、新大阪発の特急や寝台特急が所狭しと並んでいて、まさに宝の山であった。1000円の子供用の安物カメラで写真を撮りまくった。興奮して手元が動いていたのか、いつもピンボケ写真のオンパレードだった。
 中学生になり、部活が忙しくなったり、また、思春期になり、関心が映画の方に移ると、鉄道少年から卒業した。はしかと同じで二度とかかることはないと思っていた。
(2)ところが、8年程前に、本屋で青春18切符の解説本に目が行き、はじめて青春18切符を買ったのがきっかけで、乗り鉄になってしまった。それ以来、3連休やゴールデンウィーク、盆休み、正月休みは勿論のこと、月に2回程度の土日を利用して、乗り鉄生活を送っている。特に、荒涼たる原野を走る花咲線、岩にぶち当たる日本海の荒波が見られる五能線、海岸沿いにそびえる開聞岳が素晴らしい枕崎線、南半分はのどかな安曇野の水田越しに北アルプスが眺められ、北半分は険しい谷間を流れる暴れ川の姫川が楽しめる大糸線、桜と蒸気機関車とトロッコで有名な大井川鉄道、江の川沿いに山間部の斜面を少し削っただけの地盤の上を走り続ける三江線などのローカル線にはまっている。
(3)鉄道ガイドブックに載っていない美しい景色に出会えたときの喜びはひとしおである。
 何年か前の4月下旬の夕方に磐越東線に乗っていたとき、夏井駅の前後に満開の桜並木が線路と平行して5キロぐらい続いていた。関西人には葉桜の時期なので、予想もしなかった車窓に感動した。提灯はかかっていたが、ほとんど人気がなく、桜だけが際立っていた。桜ではあるけれど、桃源郷のような感じだった。夏井駅で降りようかと迷ったが、次の予定があるので断念した。
 また、一昨年の函館での人権大会の後、鉄道で旭川まで行き、特快きたみに乗って北見を目指した。10月の北海道は日没が早く、午後4時過ぎになると日がかなり陰っていた。上山・白滝間で紅葉した原野が続き、深まりゆく秋を感じた。車内の乗客は誰一人話していない。ガタンゴトンという列車の音だけが響く、静かな時間が流れた。一瞬、この列車が銀河鉄道になるような気がした。
 宮脇俊三氏の「最長片道切符の旅」という本に、旅とは自己の心を友として異郷をさすらうことだという趣旨のことが書かれていた。ガイドブックに載っていない絶景は、私の心象風景だったのかもしれない。
(4)旅先での出会いも楽しい。金曜日に小倉出張があり、その日は行橋に泊り、翌日、平成筑豊鉄道と筑豊電気鉄道を乗り継ぐ計画を立てた。行橋発で、列車の最前列に座るや、後ろの方の老婦人の視線を感じた。三つ程駅を過ぎた頃、その老婦人が移動してきて私の横に座り、話しかけてきた。「あなたはどこから来たのか?あなたは私の死んだ主人とそっくりだ。肥え具合といい、頭のはげ具合といい、瓜二つだ。」と話しかけられた。老婦人は、私のことを亡くなったご主人の血縁に違いないと思われたようだ。ご主人は大阪外大を出られた方で、関西にも縁のあった方だが、残念ながら私の親族ではなかった。
(5)知り合いから、乗り鉄だったら旅行の写真を撮って残しているのかとよく聞かれる。私はいつも「心のシャッターを押しているから、写真は撮らない。カメラ小僧のような撮り鉄は趣味に合わない。」と答えている。本当は、鉄道少年時代のピンボケ写真の思い出がトラウマになっているのかもしれない。

3.リタイア後の夢
 弁護士には定年がない。元気であれば仕事ができる。しかし、顧客や職場の同僚に迷惑をかけるわけにはいかず、いずれかの時期にリタイアする決断をせざるをえない。私はリタイア後であっても、元気なうちは乗り鉄を続けたいと思っている。リタイア後の夢は、世界の鉄道に乗ることである。アルプスの登山鉄道や台湾の阿里山鉄道に乗れれば最高だ。今から、外国の時刻表を見て、いろいろ世界の鉄道旅行を妄想している。
 このような夢を叶えるのに頼りにしているのが、日本弁護士国民年金基金である。アルプスは無理でも、阿里山ぐらいは年金基金のおかげで行かせてもらえるだろう。でも、「失われた20年」がなければ、アルプスの登山鉄道も乗れたかもしれない。若い弁護士の皆さんには、年がいってから「失われた20年」を嘆かないように、若いときからできる範囲で加入もしくは増口されることをお勧めする。リタイア後にアルプスの登山鉄道に乗れるかもしれない。

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陽だまり 2016 No44より