明日のことを思い煩わず、今を生きる
横浜弁護士会会員 千木良 正

 私は横浜市内にあるカトリック教会に所属しているが、その教会には約600名程度の信徒がおり、高齢の方々も多くいることもあって、毎年、多くの仲間が亡くなっている。すべての通夜・葬儀に参加できるわけではないが、私は都合がつけば、なるべく参加するようにしている。もちろん、「教会の仲間であり、仲間の永遠の安息のために祈る」ということが大きな目的であるが、通夜や葬儀に参加することによって、普段あまり考えることのない「自分の人生」について考えることができるということも通夜や葬儀に積極的に参加するようにしている理由の一つである。

 仲間の中には、90代で亡くなる人もいれば、60代で亡くなる人もいる。病気で亡くなる人もいれば、不慮の事故で亡くなる人もいる。会社員として働いてきた人もいれば、教員として働いてきた人もいるし、生涯、専業主婦として生きてきた人もいる。通夜や葬儀では、司祭や親族から、故人の人生のエピソードが紹介されるが、いつも一人一人の人生の重みとともに、人生の素晴らしさを感じさせられる。「一生を終えてのちに残るのは、われわれが集めたものではなくて、われわれが与えたものである」という言葉があるが(ジェラール・シャンドリ)、家族や周囲の人々への温かい思いやりなどのエピソードを聞いていると、本当にその通りだと実感させられる。
 通夜や葬儀に参加し、司祭の話を聞いたり、聖歌を歌ったりしながら故人の人生に思いを巡らしていると、次第にその思いは自分のことに向かってくる。人は誰でもいつかは死を迎える。当然、自分もその例外ではない。自分はいつ、どのように亡くなるだろうか。自分が亡くなったとき、自分の葬儀には誰が参列するだろうか。そのとき家族代表の挨拶はどのようなものになるだろうか。そして、自分はどのような紹介をしてもらいたいと思っているだろうか。そして、そのために、自分は家族に、そして周囲の人々にどのようなものを与えていきたいと思っているだろうか・・・等々。
 「死」を通して人生を考えてみると、「自分の人生にとって大切なことは何か」ということを考えさせられる。「小さなことや人間関係の問題、他の人から言われた言葉のことでくよくよしているほど、人生は短くない」「周囲の人からの賞賛や名誉を集めようとしても、それは人生を終えるときに意味はないのではないか」「自分にできることは、与えられた今を誠実に、そして精一杯、人々に与える人生を生きていくことしかないのではないか」等々を考える。通夜・葬儀に参加するといつも人生を大切に生きようと思えるようになる。

 今、私は42歳。自分ではまだ若いと思っているが、あと何年、命が与えられるかは全く分からない。仮に、今後数十年生きることを許されたとしても、数十年後、どのような人生を送っているかは全く分からない。そもそも、5年前には今の自分の生活状況は全く予想すらしていなかったものになっていることからすると、5年後の自分の生活状況は全く予想できないと思わなければならないだろう。
 ただ、確実に分かっていることもある。それは、「生きていれば、必ず生活のためにお金が必要になる」と言うことである。幸いにして、現在は経済的に困窮することなく生活することができているが、将来のことは分からない。経済的に困窮してしまったら、自分の人生を誠実に生きようとする気持ちを持てなくなってしまうかもしれない。
 お金の問題は極めて重要なことだとは思うが、できることならば、お金の問題で思い煩う人生は送りたくはないと思っている。お金とは奇妙な存在で、ないと「明日の生活は大丈夫だろうか」と人を不安にさせるし、あればあったで「誰かが自分のお金を狙っているのではないか。このお金がいつかはなくなるのではないか」と不安にさせるもののようである。おそらく、先のことは考えずに、必要なときに、必要なだけお金が存在し、必要なだけお金を使用し、必要なお金だけで満足する、ということが理想的なお金との関わり方なのかもしれない。
 弁護士になった13年前には、がむしゃらに仕事をするという生活を送っており、年金の問題をあまり考えることがなかったが、年を重ね、自分の人生を考えるようになり、必要なときに、必要なだけのお金を用意するという観点から、国民年金基金の役割を意識するようになった。そこで、今から5年前に日本弁護士国民年金基金に加入することとした。

 国民年金基金に加入したことによって、「今の自分にできることを行っている」との実感を持つことができるようになった。また、「将来のことは年金もあるのだから心配しないようにしよう」と思うようにしている。国民年金基金に加入したことによって、明日の経済的なことを思い煩うことなく、今を生きることに集中し、誠実な人生を送っていきたいと思っている。

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陽だまり 2013 No41より